2016/12/22(木) 羽生善治三冠講演会「AI 時代の行方」

しばらく前に毎日メトロポリタンアカデミーで、羽生善治三冠講演会「AI 時代の行方」というイベントがあるのを見つけ、申し込んでみました。その開催日がこの日 2016/12/22(木) だったので、有給休暇を取って行ってきました。

会場は池袋のホテル・メトロポリタンです。

ホテル・メトロポリタン

ホテル・メトロポリタン

3F の「富士」という宴会場が会場です。

ホテル・メトロポリタン 3F 宴会場 「富士」

ホテル・メトロポリタン 3F 宴会場 「富士」

到着して受付をします。自由席ですと言われて会場に入って行くと、7 ~ 8 割ぐらいは既に埋まっている感じで、そんなに空席がありません。最初に見つけた空席だと思った席には、近寄っていくと荷物が置いてあったりして、なかなか空席が見つけられません。そのままずんずん進んでいくと、なぜか演台のすぐ目の前のテーブルに空席が 3 つ並んでいました。よくわかりませんが、結果としてはラッキーなことに一番前の席に座ることができました。

自席から演台を見ると、こんな近くです。

一番前の席だったので演台が近い!

一番前の席だったので演台が近い!

時間になると司会の方が出てきて、羽生善治三冠を呼び込みます。その直前に注意事項の説明があったのですが、「写真は、自席からのみ撮ってください。また、ストロボを焚かないでください。」 と言うことで、逆に言うと写真を撮ってもよいということでした。この説明があってから、会場で多くの人がスマートフォンを取り出して写真を撮る準備をしていました。

司会の方

司会の方

そして羽生善治三冠が登場して講演がスタートです。

講演をする羽生善治三冠

講演をする羽生善治三冠

羽生さんは、話し始めにすごく簡単な前振りだけ話すと、けっこうすぐにコアな話を始めました。話の仕方にあまり抑揚がなく、羽生さん自身の頭の中で考えていることを確認しながらしゃべっているというような感じの、独特のしゃべり方です。

以下、羽生さんの話された内容というよりは、私が理解した内容です。メモも少しは取ったのですが、話の内容が膨大だったこともあり全然メモし切れなかったので、記憶に頼って書いている部分が大半です。間違っている部分とかもあると思いますので、その点はご了承ください。あと、もし当日参加しておられた方で、明らかに間違っている点に気づかれた方は、コメントなどで指摘いただけると助かります。

前半は、羽生さんなどのプロ棋士が将棋をする時にどのようなことを考えているのかという話しで、後半は、AI すなわち人工知能の話です。後半では将棋ソフトのアルゴリズムのようなことをもっとお話しされるのかと思っていましたが、そういう話は少しだけで、もっと一般的に人工知能全般の話をされていました。この後半の話は、NHK の人工知能の番組のリポーターとして取材した経験からのお話しが多かったようです。NHK の人工知能の番組というのは、NHK スペシャルの 「天使か 悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」 という番組のことだと思います。不勉強で知らなかったのですが、放送時には天才・羽生さんが人工知能について解説したということでけっこう話題になったそうです。

お話しの具体的な内容ですが、まず前半。将棋の手を読むと言うと、「何手読むのですか」 と聞かれるけど、実際に読んでいる時には数えていないので、実はよくわからないそうです。でも昔のプロ棋士が 3,000 手は読んでいると言ったのを聞かれた時には、それは言いすぎだと思ったそうです。でも 1,000 手は読んでいると思うとのことでした。

実際には着手可能な手はそれぞれの局面で何十通りもあるのですが、実際の読みは、そのうち 3 手程度を直感で選んで、そこから読み進めていくのだそうです。3 手というと少ないような気がしますが、それぞれに、相手の手も 3 手、さらにそれに対する自分の手も 3 手と読んでいくと、これだけで 3 の 3 乗、27 通りの状況を読むことになります。このように、ほんの数手進む局面を検討するだけでも 「数の爆発」 という現象が置き、読まなければいけない手はすぐにものすごく多くなってしまいます。

そこで気になるのが長考ですが、羽生さんによると、昔から 「長考に妙手なし」 と言うらしく、長考して指した手があまり良い手であることはないそうです。3 時間とか 4 時間とか考えることもあるのですが、最初の 30 分ぐらいは、論理的に手を読んでいるそうですが、その後の時間は、迷いを感じたり、読みで選んだはずの手を指すべきかとまどったりしているだけで、実はあまり読み進められたりしているわけではないそうです。また、相手が長考に入ると、自分もまず相手の手を読んで、その次、と考えるのですが、1 時間ぐらいすると考えることがなくなって、その先は 「今日の晩御飯どうしよう」 とか将棋とは関係ないことを考えてしまったりするそうです。棋士の方は 3 時間でも 4 時間でも手を読み続けられるものと思っていたし、そうであるからこそ長考しているのだと思っていたので、かなり意外でした。

身振りも交えながらお話しをされる羽生善治三冠

身振りも交えながらお話しをされる羽生善治三冠

人工知能のお話しは、歴史の話から始まりました。いきなり将棋ソフトの話をすると思っていたので、これも意外でした。

囲碁、将棋、チェスなどは、AI が人間にかなり追いついていますが、場面の可能性はまだまだあり、完全解析はされていないそうです。しかし、チェッカーというボードゲームは、コンピューターにより完全解析が終わってしまっていて、もはやどのような場面でも、どの手が最善なのか、完全にわかっている状態になってしまったそうです。ただ、囲碁の場面の数の可能性は、その数自体が、宇宙全体に存在する分子の数より多い、というような数になるというお話しもされていたので、おそらく完全解析はできないのだろうと思います。

将棋については、「あと 5 手で詰む」 というような状況については、コンピューターによる完全解析に近い状況になっているそうです。実際に詰め将棋は、最近は出題の横に 「コンピューターはこれを 3 秒で解きました」 というような説明が載っていることもあるらしいのですが、人間は場面の状況を認識するだけでもそれ以上の時間がかかるので、絶対にかなわない状態になっています。

また序盤についてもコンピューターによる解析はかなり進んでいて、中盤の部分がこれから進化していく部分なのだそうです。

人が読むのと同じように、手を読み進めて行きますが、中盤では最終局面まで読みきれるわけではないので、ある程度進めたところで、その場面を評価する必要が出てきます。それが評価関数というもので、その出来のよさが、将棋ソフトの強さを決める 1 つの要素だということです。読みを進めるにはアルファ、ベータ探索という方法を使いますが、どこかで読みを打ち切って評価関数に頼るため、その先で逆転があると、最善ではない手を選んでしまうことがあり、それを水平線効果というそうです。私はアルファ・ベータ探索が何か知っていましたが、羽生さんは、アルファ・ベータ探索というのが何なのか、ということについては説明をしませんでした。聞いていた人の中には、何を言っているのかわからなくなっていた人もけっこう居たのではないかと思いました。あと、私が勉強した時 (30 年ぐらい前の話ですが…) は、アルファ・ベータ刈りの地平線効果と言っていたように思います。同じことですが、最近は水平線効果って言うのでしょうか…

世界トップ選手である韓国人棋士に勝った囲碁のアルファ碁では、2 つの評価ベースを持っていて、論理的読みと、大局観をベースにしたものとかあるらしいです。

このような新しい処理の考え方は、他のゲームのソフトとも共通する部分があり、お互いに取り込みあっているようです。例えば、チェスのソフトにストックフィッシュというソフトがあり、その思考エンジンの流れが、将棋ソフトにも取り込まれているそうです。

ディープラーニングについては、コンピューター自体が評価をどんどん進めていって、その結果に基づいて評価関数自体を調整したりするのですが、その調整の過程を人間が理解することは困難です。羽生さんは 「過程がわからない」 と説明しましたが、たぶん実際には過程をログすることは可能だと思いますが、そこから意味を人間が読み取ることが困難という意味だと思います。そのため結果として出てきたものが正しいかどうかという判断が実は難しいそうです。将棋ソフトの場合は、その結果は、将棋のゲームに勝ったり、負けたりというような結果でしかないのですが、株の売買を行う人工知能だと、実際にお金を儲けたり、損したりしますし、医療分野の人工知能だと、治療が成功したり、失敗したりする結果になります。

また、哲学的な問題、倫理的な問題についても、人工知能は扱うのが苦手だそうです。

ディープラーニングについては、NHK の番組の取材で 「レンブラント風の絵を描く人工知能」 というのを取材したそうです。レンブラントの絵を何枚も学習した結果、あの独特の光の使い方をする絵を描けるようになったのだそうです。それっぽい小説を書いて文学賞に応募したり、というような事をやっている人工知能の研究者などもいて、学習できる情報が大量にある場面では、かなり有効な使い方ができるようになってきているということでした。

不思議な話としては、3 駒関係という解析があります。盤面全体ではなく、飛車と歩と金、のような 3 駒の関係に絞って、その相互の配置などについての評価をしておくと、その評価が洗練されていくことによって、その評価を使った将棋ソフトは強くなっていくのだそうです。なぜこのようなことになるのかはよくわからないそうです。

最近の囲碁、チェス、将棋などのソフトの能力向上には、ディープラーニングなどソフトの新しい方法論が取り入れられているということもありますが、ハードの能力向上も重要な意味を持ちます。かつて将棋ソフトの開発者の 1 人は、ソフトは全く進化しなくても、ハードがどんどん性能向上していくだけで、どんどん強くなると言ったそうです。同じ時間で 3 手しか読めなかったものが、100 手読めるようになるとか、そういう意味なのだと思います。

また囲碁、チェス、将棋のような完全情報のゲームは人工知能が得意としていますが、マージャンのような不完全情報のゲームはまだまだ研究が進んでいないようです。完全情報というのは、相手の持ち駒、盤面など、形勢を判断するための全ての情報が見えているゲームということです。マージャンは、プレーヤーには、他のプレーヤーの牌や、山に積まれているまだ取られていない牌についての情報はありません。

人工知能が得意ではないもう 1 つの問題としてフレーム問題というのがあるそうです。例えば、人間は、初めて訪問して勝手があまり良くわかっていないお宅であったとしても、「お茶を淹れて」 と頼まれれば、適当にやかん、湯のみ、お茶の葉などを探してお茶を淹れることができます。人工知能にはこういうことができません。知らないことはできないのです。

また人間は、漫画に 「うなぎいぬ」 が出てくると、即座にそれを 「うなぎいぬ」 というキャラクターとして認識し、次に出てきた時には既に、「これは、うなぎいぬだ」 と理解できますが、人工知能に 「うなぎいぬ」 をディープラーニング的手法で理解させるには、かなり大量の 「うなぎいぬ」 を見せてやる必要があります。これも人工知能の苦手な部分です。

他に人工知能が得意ではない点として、学習と推論を平行してできず、学習の段階では学習だけを行うようにしか今はできていないそうです。

また、現時点では物理的なアクションが必要になるような分野は、まだまだ不得意であるとのことでした。

面白い研究としては、北陸先端科学技術大学では、「接待将棋」 の研究をしているそうです。つまり、プレーをしている相手よりは確実に棋力のある人工知能プレーヤーが、将棋をしている相手に 「手を抜いている」 と気づかれない程度に手を抜いて、相手を気持ちよく勝たせることができるか、という研究です。実際に棋力を調整すると、明らかに負けるための 1 手とかを指してしまい、うまく行かないらしいのです。ゴルフプレーヤーロボットが登場した時にも、接待ゴルフができるようにするのは難しそうだと言っていました。

最後の方で話をされていたのは、このように人工知能の将棋が、プロの最強棋士とあまり変わらない状況となった時に、棋士とはどうあるべきものなのか、というような話を少しだけされていました。フロールゲートというコンピューター同士が対戦した将棋の棋譜を公開しているサイトがあるのですが、羽生さんは、このフロールゲートでのコンピューター同士の対戦を見ていても、面白いと思うのだそうです。プロ棋士の仕事というのは、将棋の対戦を見せて、それを楽しんでもらうことでお金をもらっているとも言えるわけで、コンピューターとどちらが強いか、ということとは関係なく、将棋の対戦を見せる、という行為自体を完全にコンピューターに置き換えられてしまうと、仕事はなくなってしまうわけです。それにどうやって対応していくかは考えなければならない課題だということでした。

講演の内容はこんな感じです。こうやって書いていても、話があっちこっちと飛んでいてわかりにくいのですが、実際に講演を聞いていて思ったのは 「羽生さんって、将棋は強いけど、話をするのは下手なのかも…」 ということでした。おそらくあまりに頭が良くて色々な事を知っているため、「聞き手がこんなことを知らないはずはない」 と思って話を省略されてしまうという点が 1 つと、羽生さん自身の記憶力がものすごく良いため 1 時間ぐらいある講演の最初の 5 分ぐらいで話した内容を、最後の 5 分のところで 「さっきのあの話」 とつなげても、みんな覚えているものと思っているようなのですが、実際には聞き手は 1 時間近い前のことなんて既に忘れていて話がつながらないというようなことがあって、話がわかりにくいのかな、と思いました。

講演が終わって羽生さんへの質問コーナーがありました。先ほどの説明にあった 3 駒問題への質問への回答で、おそらくコンピューターの能力が上がってくると、5 駒問題、とか、駒数が増えた状態での解析が行われるようになって、それにより将棋ソフトの強さも向上するのではないかというお話しがあったのが少し印象に残りました。

質問コーナーも終わり、司会の方が 「それでは羽生善治さんに拍手を」 と言ったので、そのまま退席されるのかと思ったら、演台のすぐ目の前にある関係者席のテーブルにあった空席に座られました。今回のイベントは、羽生さんの講演会に、昼食がついているのですが、なんと、昼食の時間も羽生さんが同席なのです。その瞬間まで知らなかったので、なにかすごく得した気分になりました。

昼食に参加するため関係者席に座られた羽生善治三冠

昼食に参加するため関係者席に座られた羽生善治三冠

食事はまずスープです。

スープ

スープ

続いて、パンが 2 つ (温めて出してくれると良いのにと思いましたが、冷たいまま出てきました)、メインディッシュの、豚肉のソテー・ジャガイモ・ニンジン・ブロッコリー添え、あとはサラダが出てきました。

パン、豚肉のソテー・ジャガイモ・ニンジン・ブロッコリー添え、サラダ

パン、豚肉のソテー・ジャガイモ・ニンジン・ブロッコリー添え、サラダ

最後にデザートとしてプチケーキが出てきて、あと、コーヒーも付きます。

デザートのプチケーキ

デザートのプチケーキ

コーヒー

コーヒー

事前に説明されていたイベントの案内で、講演会の後に食事が付きます、と書いてあったのですが、立食形式のビュッフェで、出遅れるとほとんど食べるものも残っていないような状況になるのかな、と勝手に想像していたのですが、予想よりずっとよい感じの食事を、着席でいただくことができて、とても良かったです。

食事の始まる時に、司会の方から 「食事中、羽生善治三冠には、サインを求めないようにお願いします」 という注意のアナウンスがありました。そのためか、羽生さんに話しかけに行く人はほとんどいませんでした。私はツーショットを撮ってもらいたいと思っていたので、食事が終わったぐらいのタイミングで、先陣を切って行ってみました。すると、快く応じてくださり、無事ツーショットを撮ることができました。

羽生善治三冠とツーショット

羽生善治三冠とツーショット

羽生さんとツーショットを撮れるようなチャンスはなかなかないと思うので、とてもうれしかったです。

先ほど質問タイムで手を上げていたのに指名されなかったので出来なかった質問もしてみました。電王戦に出て、最強といわれる将棋ソフトと戦ってみたいと思われているのか、という点です。それについては、もちろんあるし、研究もされているということでした。人間相手とは手の特徴がまったく違うため、人間相手の時とは全く異なる準備をしていかなければならないだろうということでした。また、コンピューターとの対戦は、練習や研究としてはされているのか、と聞いてみたところ、しているし、既に公開している棋譜もあるとのことでした。公開している棋譜ってどこで見れるのでしょう…?

私がツーショットを撮ってしまったがために、羽生さんと上記のお話しをし終えて、自席に帰ろうと後ろを振り向くと、大勢の人が行列を作っていました。ちょっと羽生さんに申し訳ないことをしたな、と思いましたが、羽生さんはそれら大勢の人に、とても丁寧に、笑顔で対応されていて、さすがだなぁ、と思いました。

今回のイベントは、色々な意味で期待を上回り、参加できてとてもよかったです。毎日メトロポリタンアカデミーは、過去の開催記録を見ると、政治家や、財界関係者などを招いた講演会が主なようで、羽生さんはちょっと異例な感じです。おかげでコアな将棋ファンに埋め尽くされる前にチケットを取れたということがあるように思いますが、逆に毎日メトロポリタンアカデミーに再び羽生さんが登場することはなさそうだなぁ、という感じでもあるので、残念ながら、この素晴らしいイベントは今回限りとなりそうです。

また羽生さんの登場するイベントを見つけられれば、行って見ようと思いました。

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